足し算という宇宙

 実際、足し算で躓く子供は多い。足し算のできる大人からみれば何でこんなところで?と思うかもしれないが、実は足し算は難しいのだ。

 今回はいかに足し算が難しいことか、について語ってみる。

 

「3個の飴と2個の飴、合わせて何個ですか?」……(*)

この質問に答えるには、以下の2つの方法がある。

 

①合わせて数えること

 一般に、初めて足し算にふれるとき、合わせて数えることから始める。合わせて数えるとは、例えば(*)の問題に対して、実際に3個の飴と2個の飴を別々に用意して2つを合わせて1,2,3,4,5と数える方法だ。

 

②ある数の、次の次の……としていって、答えを見つけること

 具体的には、(*)の問題に対して、3の次は4,4の次は5として答えを出す方法だ。

 

 多くの大人は足し算を①だと考えているようだ。しかし、①の方法は数が大きくなればなるほど実際に数えるのは難しい。一方で、②の方法ならばどんなに大きな数の足し算でも「足される数の足す数回次の数」とすぐに答えがわかる。例えば

300+200

であれば、答えは「300の200回次の数」である。実際の足し算では、それが500であることまで求めなければならない。しかし、それはかけ算と簡単な足し算さえわかっていればそれほど難しいことではない。

300+200=(3+2)×100=5×100=500

 

 では、何が子供にとってそんなに難しいのか?ずばり言う。①の方法と②の方法の答えが一致することに気づくことである。これははっきり言ってかなり難しい。それくらい①の方法と②の方法の間には大きな溝がある。

 

 数を数えられるようになったばかりの子供にとって、3個の飴はやはり3個の飴でしかない。①の方法はそれでもできる。しかし、②の方法でも(*)が解けることを理解するには、3個の飴を数の3と対応させる必要がある。足し算は実は十分に抽象的な数学なのだ。3と対応させることで初めてその次の次の数を考えることができる。そして出てきた数、5が5個の飴と対応することに気づいて初めて②の方法が理解できる。

 

 中学になっても指を使って足し算をする子供が少数かもしれないが、確かにいる。筆者は、そういう子供は①の方法で足し算をしているとおもう。おそらく、その子は(*)の問題をまず左手の3本の指を立て、右手の2本の指を立て、1,2,3,4,5と数えて解くのだろう。指から卒業するには②の方法を身につける必要がある。つまり、まず3本の指を立て、次に、4,5と続きから数えながら指を立てる。これで解くことができれば、簡単な足し算が暗算でできる日はそう遠くないはずである。

 

 最後に、大人が足し算を教えるときの心構えについて書いておこう。足し算に初めてふれる子供にとって、それはいわば未知との遭遇である。当たり前だとおもわずに、丁寧に教えてあげよう。そしてわからない子には、わかるまで付き合ってあげることが大切だとおもう。私はすべての子が算数ができるようになると信じている。